城崎温泉は「まち全体で一軒の旅館」によく例えられます。駅が玄関で、道路は廊下で、外湯が大浴場で、土産物屋が売店で、そして75軒ある旅館が客室で…。お客様にはまち全体を楽しんでいただく…。それが城崎温泉なのです。
この例えの根幹は代々受け継がれている共存共栄という住民互助の精神によるところなのですが、言うは易し、語るは多し…なのであります。
写真は毎日献立が替わる従業員用の給食弁当です。
これは75軒の旅館が加盟する城崎温泉旅館協同組合(以下、組合)がとりまとめて業者に手配し格安で各旅館が購入する経営者にとっては誠に有り難い仕組みの上に成り立っています。
そもそも一般的には同じ地域内の旅館同士は言わば商売敵(しょうばいかたき)なのが当たり前。隣の旅館がうちよりも儲かっているようであれば腹も立つし、蹴落としたいと思うのが正常な経営者の心理だと思うのですが、城崎温泉の旅館経営者はお人好しなのかみんな仲が良いのです。75軒がひとつになって組合という共同体を作っている訳で、その軒数や組織的な仕組みは全国でも他に類を見ないと言えます。
とにかく組合の互助の仕組みは凄いです。
共同の予約システムの開発、JR城崎温泉駅から各旅館への共同のチェックインバス(シャトルバス)の運行、共同のPR事業、備品や消耗品の格安共同購入、共同のレンタサイクル事業、共同でのマッサージ師やコンパニオンとの業務提携…etc.
あげくは、従業員の引き抜きを禁止し賃金や賞与はどこの旅館も同じに設定している徹底ぶりです。
これはほんの一部でとにかく揚げれば枚挙にいとまがありません。
この苦しいコロナ禍の3年間で1軒の脱落者も無く今日の日を迎えることが出来ているのも強きが弱きを助ける共存共栄の精神によるところが大きいのです。
なお、城崎温泉の凄いところは飲食店にも土産物店にも他の商業にも同じような組合組織があって、しかもそれらをとりまとめる形で観光協会と商工会が存在し、さらには一般の住民の方々にも共存共栄への理解が行き渡っているのであります。
弁当ひとつからとても壮大な話になりましたが、城崎温泉とはそんな地域なのであります。