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不便なことが城崎温泉流

2005.05.7|普段は表に出ない裏側の話

当館のロビーの片隅に売店があります。
皆さまは「旅館に売店はつきものである」とお思いでありましょうが、こと城崎温泉ではけっこう珍しいことであるのです。けれども当館の売店とて規模は小さく「これだけ?」とお客様に言われることもしばしばであります。
ちなみに喫茶のたぐいも持ち合わせている旅館は少なく、当館でもロビーにてコーヒーのみをお出しするといった程度であります。

私は小さな頃より「城崎温泉はまち全体で1軒の旅館」とよく教えられて参りました。旅館業に携わるようになってからも、父親や諸先輩方から念仏のようにことあるごとにこの言葉を聞かされました。
つまりは、駅が玄関、道路は廊下、外湯は大浴場、土産物屋は売店、喫茶店は喫茶室・・・というわけであり、我々旅館の役割は城崎温泉という大旅館の中の客室なのだということであります。

高度経済成長期以降、全国各地において旅館というものはどんどんと大規模化していきました。旅館の中に疑似温泉街ができ、館内でなんでも用が足りることがひとつの「うり」となりました。お客様を自館から一歩も外に出さないようにし、お金は館内で全て落とさせるといった「お客の囲い込み」を各館が競ってやったのであります。
大型バスで団体客がわんさか押し寄せていた時代はそれで良かったのでしょう。けれども今となっては、気がつけば温泉街は廃れ、町並みは失われてしまったのであります。

城崎温泉は大型旅館が乱立したご時世にあってもそれに追随することをせず、独自の道を歩んで参りました。皆の心の中には常に「城崎温泉はまち全体で1軒の旅館」という思いが共通してあったのです。

話は長くなりましたが、それで城崎温泉の旅館はどこも(一部例外をしておられるところもありますが)売店や喫茶の機能を持ち合わせていないか、或いは極々小規模なのであり、「足らずは館外の施設でどうぞ・・・」となるわけなのであります。

最近は『スローライフ』がもてはやされています。
スローライフとは聞こえはいいですが、逆説的に言えば「不便さ」が「うり」なわけで、それをなんだかうんちくを並べて価値観を上げただけのようにも思えるのでありますが、城崎温泉にはまさに、その「不便さ」が数多く存在しているのであります。
身近で用が足せないこと、わざわざ館外で用を足さないといけないことが多いのであります。

我々は「是非まちをお歩き下さい」と、お越しいただく皆さまに申し上げたいのであります。
この不便さが時として満足度の対象に繋がることもあり、つまりは『不満』という評価になるのでありますが、「郷にいれば郷に従え」ということわざもあるように、身も心も「城崎温泉流」を楽しんでいただきたいのであります。

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