村松友視さんの「俵屋の不思議」という本が大好きです。
言わずと知れた京都の超一流名旅館俵屋(たわらや)さんのことを書いた本でありますが、それと当館とを重ね合わせることはたいへんにおこがましいことだとは思いますが、当館のような旅館の端くれであっても、本当にたくさんの人々に支えられ成り立っていることは間違いのない事実なのであります。
城崎温泉には昔からたくさんの職人さんが住んでいました。大工、表具屋、建具屋、庭師、電気屋、設備屋等々…。
家人を越えて誰よりも旅館の細部を熟知し、休みであろうが夜間であろうが、緊急時にはすぐに駆けつけ対応してくれる。旅館は装置産業ですので、器具の不備や破損は日常茶飯事で、お客様がご不便を感じられないよう本当に縁の下の力持ちとなって修繕に当たってくれる。そんな職人気質の人がいっぱい居てくれて旅館というものは成り立っているのでありました。これは当館に限らず、どちらの旅館さんでも同じく思っておられることと思います。
しかしながら、時代の流れと言えばそれまでですが、そんな職人さん達も最近は高齢化によりひとりまたひとり…と廃業していかれ、たいへんに不安で寂しく思う状況を迎えるに至っています。
昨日のこと、普段からたいへんに頼りにしている設備屋さんの訃報に接しました。
あなたの場合はまだまだ働き盛りの60代。少なくなる職人さんの中であなたとはこれからまだまだ長い付き合いだと思っていました。無理も言えたし、機転の利く仕事ぶりで、職人中の職人と尊敬していました。これまでたくさんの仕事を依頼し、相談にも乗っていただいた。当館にとっては大恩人でした。
(困った時にしか会わないので)「あなたにはあまり会いたくないのに…」と冗談も言っていましたが、こんなに早くにお別れするとは思ってもいませんでした。とてもとても悲しいです。
お通夜に行かせていただきましたが、悲しくてお顔を拝見することすらできませんでした。涙が溢れました。
増田さん、本当に本当に本当に有り難うございました。安らかにお眠り下さいませ。
当館の中庭のもみじがようやく色付いて来ました。
華やかである筈の紅葉が、今日はとても寂しく感じられます。
合掌