当館の舞台裏「下駄箱」に並ぶ「下駄(げた)」です。
たんさんあるでしょう。雨が降った際の外出で下駄が濡れてしまった場合でも、いつも乾いた下駄でお出かけいただけるよう100足以上の下駄を待機させているのです。
下駄は外湯めぐりの必需品です。皆さまは普段履き慣れない物ですから履き心地はやや悪いかもしれませんが、やはりゆかたに下駄履き(やっぱり素足)で温泉らしさに是非とも浸って下さいませ。
さて、一般的に下駄の音は「カランコロン」と表すると、どなたもお思いのことと推察いたします。実は私はこのことをいつも疑問に思っているのです(屁理屈かもしれませんが)。
私自身が下駄を履いて歩く時は、実はあまり「カランコロン」と音がいたしません。「カランコロン」と音を出そうとすると、下駄を引きずって歩かないといけないのです。歩くわけですからもちろん足は上がって前へ前へと行きますが、下駄と足との接点は鼻緒の部分だけで繋がっているわけですから、足を上げると(歩くと)足のかかとと下駄の後方とは必然的に離れ、足は上げても下駄は引きずられてしまうのです。それで下駄と道とが擦れ合って「カランコロン」と良い音がいたします。
私はどうかと言いますと、下駄を引きずらないように心持ち鼻緒の指に力を入れて(慣れていますので自然とそうなります)、しかも下駄の後ろの歯より前の歯に重心をかけるような感じで歩きます。そうすると足のかかとと下駄とがあまり離れませんので音もあまりしないのです。
特に若い男性のお客様は元気よく「カランコロン」と音を立ててお歩きになります。街ゆくお客様を見ていると、時には下駄が可愛そうに思うことも…。
そうなると「カランコロン」も心地よい音からうるさく感じられてしまいます。当館には道路に面したお部屋はありませんが、道路に面したお部屋のある旅館に泊まられたお客様はかなり騒がしいこととお察しいたします。
そして何よりも、そうして歩くと下駄が非常に傷むのです。後ろの歯だけが変に摩耗して、次回からはたいへんに歩きにくくなります。
「初雪や ニの字ニの字の 下駄の跡」という有名な句がありますが、下駄を引きずっていては、足跡が“ニの字”“ニの字”とは決してならないのであります。
余計なことを申しましたが、よろしければ一度お試し下さいませ。
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